遠隔操作とテレロボティクス

 工学部   岩村誠人

 

 コロナ禍の今、遠隔授業、テレワークなど、遠隔〇〇、テレ〇〇という言葉をよく見聞きしますが、ここでは、ロボット分野における遠隔〇〇、テレ〇〇について簡単にまとめてみたいと思います。

 遠隔操作ロボットの歴史はかなり古く、1947年にはアメリカのアルゴンヌ国立研究所で作業者が核燃料を離れた場所から取り扱うためのロボットアームが開発されています。当初は操作デバイスとロボットアームをリンク機構やワイヤで機械的につないだマジックハンドのようなものでしたが、1950年代に入ると電気的に結合したものが開発されて機械的な制約がなくなり、動作範囲が拡大しました。その後、宇宙、海洋探査、建設現場、外科手術など様々な分野に応用が広がっていきました。

 遠隔操作ロボットの操作方式としては、実際に作業を行うロボットアームと同じか類似の形態の操作デバイスを用いるマスタ・スレーブ方式がもっとも一般的です。操作デバイス(マスタ)の動作をロボットアーム(スレーブ)がトレースするため、直接作業するのに近い形で直観的に操作できるメリットがあります。制御方式としては、単に操作者の指令をスレーブ側に送るだけのユニラテラル制御と、それに加えてスレーブが環境から受ける力を操作者へフィードバックするバイラテラル制御があります。バイラテラル制御を用いるとあたかも操作者が直接作業を行っているかのような感覚(機構透明性と呼ばれています)に近づけることができます。

 1990年代のインターネットおよび移動体通信技術の爆発的な発展とともに、これらの通信インフラにロボットを接続して遠隔操作する試みが行われるようになりました。計算機ネットワークを介しての遠隔操作に特有の問題としては通信遅れの問題があります。ロボットシステムを構築する際、使用時に暴走しないこと(安定性)が最も重要ですが、マスタ・スレーブシステムでは操作者と環境の特性も含まれてくるため、通信遅れの問題とも相まって安定性の解析が非常に難しく、現在でも様々な研究が行われています。

 遠隔操作ロボットは当初はアーム型が多かったのですが、その後、移動機構にアームが搭載されたり、人型ロボットを遠隔で操作したりすることなどが考えられるようになりました。遠隔地から指令を送って作業するロボットシステムに関する技術を総称してテレロボティクスと呼んでいます。操作するロボットが複雑大規模になるとすべての動作を操作者が指令することが難しくなるため、遠隔操作と自律制御を組み合わせるシェアードオートノミー(共有自律)やスーパーバイザリー制御などの考え方が出てきました。

 操作者とロボットとの運動系、感覚系の結合をさらに密にしていくと究極的にはあたかも操作者自身がロボットに成り代わって作業を行えるようになります。つまり、ロボットが人間の分身となります。このような人間がロボットに入り込んだかのようにロボットを操作する概念はテレイグジスタンスとかテレプレゼンスと呼ばれています。これらの概念は1980年代に既に提唱されていましたが、近年、ロボットの様々な要素技術、バーチャルリアリティ(VR)技術、人工知能(AI)技術などが飛躍的に発展し、ヘッドマウントディスプレイなどの周辺機器も高性能化、低価格化されてきたことにより、いよいよ現実味を帯びてきました。第5世代移動通信システム(5G)による通信速度の向上はこれをさらに後押しすると考えられています。

 大学の授業でも教壇から教室を見渡すと生身の学生さんに交じってアバターロボットが受講しており、教壇に立っているのも実は教員のアバターで本人は自宅から遠隔で授業を行っている、などというような時代が来るのでしょうか?…などと夢想しつつ、まずは後期の遠隔授業をしっかり頑張りたいと思います。