「 AI技術を利用した医薬品開発」

医学部 岩本隆宏

 

近年、人工知能(AI)の技術を利用した医薬品開発が注目されている。この流れは、様々な分野でのAI技術応用のブームに加えて、医薬品開発の低迷や医療費削減対策による薬価引き下げなど、製薬業界の環境変化が影響している。最近の製薬業界は冬の時代を迎えており、医薬品開発費は年々高騰する一方、新薬開発の成功率は減少傾向となっている。従来の化合物合成とスクリーニングによる医薬品開発は、10年以上の歳月と数百億~1千億円の費用がかかり、その成功率は0.01%以下と言われている。一方、アンメット・メディカル・ニーズ(治療法の確立されていない疾患および医療分野)に対しては、一刻も早い新薬開発が望まれている。このような状況下、新しい創薬アプローチのブレークスルーとして、AI技術を利用した医薬品開発に期待が高まっている。

 

AI技術の創薬応用としては、バーチャルスクリーニング法による機能蛋白質と化合物の相互作用予測、医療ビッグデータによるドラッグデザインなどの実用化が進められている。また、AI技術を利用したドラッグ・リポジショニング(既存薬や開発中止薬から新規薬効を見つけ出し、治療応用する研究手法)の効率化・加速化も検討されている。これらの目的で、IT企業による創薬事業への参入やAI創薬ベンチャーと製薬企業の提携が活発化している。また最近、参加89機関の大学・製薬企業・IT企業によるAI創薬コンソーシアム(LINC)も設立された。LINCプロジェクトの趣旨は、「IT業界とライフ業界のAI開発でのマッチングを促進し、IT業界が世界のAI産業競争に勝てる土壌作りを目指すこと、さらには、AI戦略によるライフ業界の産業競争力を加速することを目指す(LINCのHPより)」となっている。

 

このように、現状のAI創薬は方向性と戦略が見えてきた段階である。今後、産学官の連携により本格的な実用化に向けてさらに発展し、新薬開発の効率化(低コスト・低リスク)や薬剤費削減の実績があがることを期待したい。