電子政府

法学部 道山治延

 ここに一つの報告書がある。昨年末に、早稲田大学電子政府・自治体研究所によって作成されたもので、「世界的に進む電子政府の高度化」と題されており、世界の主要国の電子政府の進捗状況を調査・検証したものである。この報告によれば、日本の電子政府ランキングは4位だそうである。この結論に、異論があるわけではない。恐らく様々な努力がなされているはずであるし、そう願いたい。しかし、最近のWinnyをめぐる事件をみていると、少々不安に思うこともある。何ゆえに政府機関から情報の流出が相次いでいるのかと。

 (1)ネットワーク・インフラの充実度、(2)インターフェース・オンラインサービス、(3)マネジメント最適化、(4)ホームページの状況、(5)CIOの導入・評価、(6)電子政府の進捗状況が調査項目として挙げられており、数値化された指標としても興味深い報告である。確かに、近年のブロードバンドの普及、電子決済や「e-Tax」と称する電子申告・納税の制度、色々と議論の的になっている住民基本台帳ネットワークなどの仕組みが整備されてきた。一部の自治体では電子投票も始まっている。今、我々はインターネットを通じて様々な情報を得ることが可能になりつつある(その逆も)。

 平成13年に策定された「e-Japan戦略」において、「我が国は、21世紀を迎え、すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に活用し、かつその恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向けて、既存の制度、慣行、権益にしばられず、早急に革命的かつ現実的な対応を行わなければならない。超高速インターネット網の整備とインターネット常時接続の早期実現、電子商取引ルールの整備、電子政府の実現、新時代に向けた人材育成等を通じて、市場原理に基づき民間が最大限に活力を発揮できる環境を整備し、我が国が5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」と宣言されており、その努力の一端が報われたと行ってよいかもしれない。そのための法整備も行われつつある。「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(所謂IT基本法)」はいうまでもないが、ネットワークを通じて情報をやりとりする社会の問題点を意識した法的整備も欠かせない。「個人情報保護法」もその一環と考えるべきである。

 ネットワークはいうまでもなく情報が流れることが前提である。様々な情報があり得る。公開されるべき情報もあれば、そうでないものもあり得る。個人のプライバシーにかかわる情報も含まれよう。情報は、公開される、されないにかかわらず、厳重に管理されてこそ情報化社会といえるのではなかろうか。公開されるべき情報は、それを欲する者のもとに適正に素早く届けられてしかるべきであるし、公開されるべきでない情報については、権限のない者が目にすることがあってはならない。にもかかわらず、最近、北海道の自治体から流出した「住基ネット」情報がインターネットに流出したとの報道を目にした。これもWinnyが関係するものであった。Winnyがよくないというつもりはない(Winnyは立派なプログラムであり、高度な技術が用いられている。多くの場合、使い方に問題があるだけであろう。包丁で殺人が行われたからといって、包丁は悪くないし、通常の使い方をする人も悪くない。問題なのは使い方なのである)。多くの事件において、職員の私有コンピュータを通じて流出したことに驚くのである。緊急にコンピュータを導入する行政機関があるという報道に接するに、更に驚きを覚える。どこかに隙があるのだろう。

 これは他人事ではない。福岡大学も情報化を推進しており、今後、科目登録などインターネットを通じた手続も増えてくる。福岡大学版電子政府というわけだ。「情報通信技術(IT)を積極的に活用し、かつその恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向けて」、まず大学が努力を重ねるべきことに異論はない。大学は一歩も二歩も先を行ってしかるべきである。しかし、便利さだけを追求することには問題もあることを意識すべきであろう。「インターネット利用者の不安」と題するコラムもあった。色々と手は打っている、だが本当にシステムを信じていいのだろうか。システムは信じられるかも知れないが、これを運用する人の側に隙はないだろうか。自問してみる必要があるように思われる。